【終活の第一歩】家族に負担をかけない、財産と相続の準備リスト
自身の人生のエンディング、そして大切な家族の将来について考え始めたものの、何から手をつければよいのか分からず立ち止まってはいませんか。
「終活」という言葉には少し身構えてしまうかもしれませんが、これは残りの人生をより良く生きるための、そして家族への感謝を伝えるための前向きな準備です。
この記事では、そんな不安を解消するために、終活で「やるべきこと」を具体的な3つのステップに分けて解説します。これを読めば、今日から何をすべきかが明確になり、安心して準備を進められます。
【STEP1:知る】まずは自分の財産をすべて書き出してみる
終活の第一歩は、自身の財産を正確に把握することです。全体像が見えなければ、対策の立てようがありません。まずはプラスもマイナスもすべて洗いざらい書き出してみましょう。
プラスの財産
まずは、価値のある財産をリストアップします。通帳や権利書などを手元に用意して、一つひとつ確認していきましょう。
| ・預貯金(銀行名、支店名、口座番号、おおよその残高) ・不動産(土地、建物の所在地、名義人) ・有価証券(株式、投資信託などの銘柄と預けている証券会社) ・生命保険(保険会社、証券番号、受取人、死亡保険金額) ・その他(自動車、貴金属、骨董品、ゴルフ会員権など) |
マイナスの財産
見落としがちですが、借金も相続の対象となります。家族が後で困らないよう、こちらも正直に書き出しておくことが大切です。
| ・住宅ローン、自動車ローン ・カードローン、キャッシング ・奨学金の返済 ・他人の借金の保証人になっていないか |
プラスの財産からマイナスの財産を差し引いたものが、おおよその相続財産となります。
デジタル資産
現代の終活で絶対に忘れてはならないのが、「デジタル資産」です。自身にしか分からないものが多く、放置すると家族が大変な思いをします。
| ・金融系(ネット銀行、ネット証券、FX口座など) ・SNS(Facebook、X、 Instagramなどのアカウント) ・サブスクリプションサービス(動画配信、音楽配信など月額課金のもの) ・その他(オンラインショッピングのアカウント、各種ポイント、ブログなど) |
最低でもサービス名とIDをリストアップし、パスワードの管理方法を決めておきましょう。具体的には、信頼できるパスワードマネージャーサービスを利用し、そのマスターパスワードの情報を特定の方法で信頼できる家族に共有する、または、エンディングノートに記載する際は厳重に保管し、その場所を家族に伝えておくなどの対策が考えられます。オンラインの金融サービスに関するIDやパスワードは、セキュリティに十分配慮した上で、家族が困らないよう引き継ぎ方法を検討することが重要です。
【STEP2:伝える】家族への道しるべ。「遺言書」の正しい作り方
財産の全体像が見えたら、次はそれを「誰に、どのように遺したいか」という意思を形にします。その最も有効な手段が「遺言書」です。
自筆証書と公正証書、どちらを選ぶべき?メリット・デメリット
遺言書には主に2種類があり、それぞれに特徴があります。自身の状況や目的に合わせて、適した方法を選びましょう。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
| 作成方法 | 全文・日付・氏名を自書し、押印(※財産目録のみパソコン作成可) | 公証役場で、公証人と証人2名の立会いのもと作成 |
| 保管方法 | 自宅保管等(法務局保管制度を利用(有料)) | 公証役場が原本を保管 |
| メリット | ・費用がかからず手軽に作成できる(ただし、法務局保管制度を利用する場合は所定の手数料が必要) ・修正や書き直しが自由 ・法務局に預ければ紛失リスクを防げる ・検認不要(※法務局保管時) |
・形式の不備がなく、法的に確実 ・原本が公証役場に保管されるため安心 ・家庭裁判所の検認が不要 |
| デメリット | ・形式不備で無効になるおそれがある(※保管制度利用で軽減) ・保管制度を利用しないと紛失や未発見のリスクがある |
・作成費用がかかる ・証人2名の準備が必要 ・修正や撤回に手間がかかる |
両者を比較すると、自筆証書遺言は費用を抑えながら自由度が高い点が魅力です。一方、公正証書遺言は信頼性と安全性に優れており、より確実に自身の意向を残しておきたい場合に適しています。自身の事情や目的に合わせて、無理のない方法を選ぶことが大切です。
「付言事項」で、財産分けの理由と感謝の想いを伝える
遺言書には、財産の分け方を指定するだけでなく、「付言事項(ふげんじこう)」という自由に想いを伝えられる欄があります。法的な拘束力はありませんが、実はとても大切な役割を果たします。
「長年介護してくれた長男の妻にも、感謝の気持ちとして遺贈します」
「なぜこのような分け方にしたのか、私の気持ちを理解してください。家族みんなが仲良く暮らしてくれることを心から願っています」
このように、財産分けの理由や家族への感謝の気持ちを書き添えることで、残された家族の間の無用な争いを防ぐ「潤滑油」になります。
遺言書より手軽な「エンディングノート」から始める方法も
「いきなり遺言書はハードルが高い」と感じる方は、まずエンディングノートから始めてみましょう。エンディングノートには法的効力はありませんが、自分の情報(財産リスト、医療や介護の希望、葬儀の希望、大切な人へのメッセージなど)を整理し、家族に伝えるためのツールとして非常に役立ちます。
【STEP3:渡す】生きているうちに想いを伝える「生前贈与」
相続は、亡くなった後だけの話ではありません。元気なうちに財産の一部を渡しておく「生前贈与」も、有効な選択肢の一つです。
生前贈与は相続税対策にも
生前贈与の大きな目的の一つは、将来の相続税の負担を軽くすることです。
相続税は亡くなった時点の財産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に課されます。生前贈与で財産の一部を渡しておくことで、その分の相続財産を減らすことができ、結果として相続税を抑える効果が期待できます。
毎年110万円まで非課税。「暦年贈与」の基本と注意点
生前贈与で広く利用されているのが「暦年贈与(れきねんぞうよ)」です。これは、1人が1年間(1月1日〜12月31日)に受け取る財産の合計が110万円以内であれば、贈与税がかからないという制度です。この非課税枠を活用することで、税負担を抑えながら段階的に財産を次世代に引き継ぐことができます。
なお、2024年以降の税制改正により、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税対象として加算されるようになります(従来は3年)。これは、早めの対策がより重要になることを意味します。この改正は2024年1月1日以降の贈与から適用され、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税対象として加算されるようになります。ただし、新たに加算対象となる過去4年間の贈与については、合計で100万円が控除される経過措置が設けられています。生前贈与を検討する際は、最新の税制を理解し、ご自身の状況に合わせて慎重に贈与計画を立てることが重要です。
【注意点】
毎年同じ金額を贈与し続けていると、税務署から「定期贈与」と判断される可能性があります。定期贈与とみなされると、贈与税がまとめて課税されるリスクがあるため注意が必要です。
これを防ぐには、毎年の贈与について都度契約書を交わしましょう。あわせて、必要に応じて贈与の時期や金額に変化を持たせるのも有効です。
終活は、家族への最後のラブレター
終活は、自身の人生を整理し、大切な家族への配慮と感謝を形にするための重要な準備です。それは、自身が歩んできた人生を肯定し、大切な家族へ「ありがとう」と「これからも安心して暮らしてね」という想いを伝える、最後のラブレターを書くようなものです。
財産を整理し、意思を伝え、感謝を形にする。この3つのステップを一つひとつ進めていくことで、漠然とした不安は、未来への安心感へと変わっていきます。この記事が、あなたの温かい終活の第一歩となることを心から願っています。
終活に関する制度や法律、税務は複雑であり、個々の状況によって最適な方法は異なります。この記事でご紹介した内容は一般的な情報であり、具体的な手続きや計画については、取引先の金融機関や弁護士、税理士、司法書士などの専門家に相談しましょう。
