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教育ローンと奨学金の違いから併用のメリットまで進学資金の賢い準備方法

「子どもの進学費用は、教育ローンと奨学金のどちらで準備すべきか」。子どもの将来を考えるうえで、多くの方がこの二択に悩まれます。制度の内容が複雑に感じられ、どちらか一方を選ばなければならないと思い込んでしまうのも無理はありません。

しかし、教育ローンと奨学金は必ずしも二者択一ではありません。実際には、それぞれの制度の長所を理解し、効果的に組み合わせることで、家計への負担を軽減しつつ、子どもの進学をより強くサポートすることが可能です。

この記事では、両制度の根本的な違いから、「教育ローンで入学金を準備し、奨学金で授業料をまかなう」という効果的な併用方法、さらには申し込みの具体的なスケジュールまでを、わかりやすく解説します。

教育ローンと奨学金、最大の違いは「誰が借りて、いつ受け取るか」

教育ローンと奨学金は、どちらも教育資金を準備するためのものですが、その性質は全く異なります。両者の最大の違いは「誰が契約者になるか」と「いつ資金を受け取るか」という点です。

項目別で違いを徹底比較

まずは、両者の違いを表で比較してみましょう。ここでは、最も多くの学生が利用する日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金を例に比較します。この表を見るだけで、全体像がクリアになります。

項目

教育ローン

奨学金(貸与型:JASSOの例)

契約者(借主)

保護者

子ども

返済義務者

保護者

子ども

受け取り時期

入学前に一括が多い(都度受け取れるタイプもある)

原則、入学後に毎月定額

※入学時にまとまった金額を受け取れる「入学時特別増額貸与」制度あり

資金の使い道

学業に関わる費用について幅広く利用可能(学費、教材費、下宿の初期費用、パソコン購入費など)※金融機関により異なります

学業に関わる費用(学費、生活費など)

※使い道の証明は通常不要

主な審査対象

保護者の年収・勤務状況・信用情報(返済能力の審査)

【学力基準】学生本人の成績

【家計基準】保護者の年収・所得(上限額を超えると対象外)

金利

奨学金より高め

・国のローン:年2%台(固定金利)

・銀行ローン:年25%程度(変動金利が多い)

無利子(第一種)または非常に低い(第二種)

・第二種(有利子):上限年3%だが、近年の実績は年1%未満がほとんど

申込時期

通年(必要なときにいつでも)

在学中の高校などで春頃に申し込むのが一般的(予約採用)

保証制度

必須

・連帯保証人、または 保証機関(別途保証料が必要)

選択制

・人的保証:連帯保証人・保証人が必要

・機関保証:保証機関に依頼(毎月の奨学金から保証料が引かれる)

申込先

銀行、信用金庫、日本政策金融公庫(国)など

日本学生支援機構(JASSO)、大学、地方自治体など

※JASSOは在学中の学校を通じて申し込む

教育ローンは「親が借りる前払金」、奨学金は「子どもが借りる後払金」

上記の表をより簡潔に理解するには、次のように覚えるとよいでしょう。

・教育ローン = 親が借りる、入学前に受け取る「前払金」

合格発表後、入学手続きの際に必要となる入学金や前期授業料といった「まとまったお金」を準備するために利用されます。また、銀行によっては入学時だけでなく子どもの在学期間中、借入限度額の範囲内で必要な時に必要な額を何度でも借入ができるカードローン型商品も用意されています。これは金融商品の一種であり、返済の責任は契約者である親にあります。

・奨学金 = 子どもが借りる、入学後に受け取る「後払金」

大学入学後、授業料や生活費に充てるため、月々一定額が振り込まれる制度です。あくまで学生本人が借り、卒業後に返済していく仕組みであり、学生の学びを支える福祉的な側面も持ち合わせています。

このように、「誰が借りるのか」「いつお金を受け取るのか」という基本的な違いを理解することが、両制度を上手に使いこなす第一歩となります。

教育ローンと奨学金は「併用」するのが賢明な選択肢

教育資金の準備においては教育ローンと奨学金、両者の特性を活かして「併用」することこそ、家計の負担を軽減するうえで非常に有効な選択肢なのです。具体的な戦略を見ていきましょう。

戦略①【入学金】教育ローンで、合格後すぐ必要なまとまったお金を確保する

大学合格後は、入学金や前期授業料など、100万円前後のまとまった費用を短期間のうちに一括で支払う必要があります。入学手続きの締め切りは合格発表から1〜2週間以内とされることが多く、迅速な資金準備が求められます。

しかし、奨学金は初回の支給が大学入学後の4月以降になるため、入学手続きには間に合わないことがほとんどです。この「入学前の資金不足」を補う手段として有効なのが教育ローンです。

教育ローンは、入学前にまとまった金額を借りられるため、急な出費にも柔軟に対応できます。ローンを利用して入学時の費用を一時的に立て替えることで、手元の貯蓄を急激に減らさずに済み、生活防衛資金を確保できるというメリットもあります。支出のピークを分散させ、精神的な負担を軽減できる点でも、教育ローンは実用性の高い選択肢といえます。

戦略②【授業料】奨学金で、在学中に継続してかかる費用をまかなう

大学入学後は、授業料のほかにも教材費や一人暮らしの生活費など、継続的な支出、いわゆるランニングコストが発生します。これらの費用を計画的にまかなう方法として活用できるのが奨学金です。

奨学金は、月々一定額が学生本人の口座に振り込まれるため、生活費や学費の補填に使いやすいのが特徴です。また、無利子または非常に低い金利で借りられる場合が多く、教育ローンと比べて返済負担が軽く済むという大きな利点があります。

このように、入学時の一時的な出費には教育ローンを、在学中の継続的な出費には奨学金を充てることで、費用の性質に合わせた合理的な資金計画が立てやすくなります。また、学生本人が奨学金を通じて自らの学費と向き合う経験は、金銭感覚や自立心を育む教育的な効果も期待できます。

高校2年生から始める「教育ローン×奨学金」必勝ロードマップ

「併用が効果的なのは分かったけど、具体的にいつ、何をすればいいの?」という疑問にお答えします。高校2年生の終わりから始める、理想的なスケジュールをロードマップ形式で紹介します。

STEP1【高校2年生の冬~高校3年生の夏】情報収集と仮審査で資金感覚をつかむ

まずは高校2年生の冬頃から、教育ローンの情報収集を始めましょう。そして、高校3年生の夏までに、一度金融機関の「仮審査」を申し込んでみることをおすすめします。

この段階での目的は、「想定している進路で必要になりそうな金額を、現在の家計状況で借り入れできそうか」というおおよその目安を知ることです。

国の教育ローン(日本政策金融公庫)や、主要な銀行の教育ローンでは、WEBから簡単に仮審査の申し込みができます。仮審査の結果は、実際の融資を保証するものではありませんが、進学資金の準備を考えるうえで大切な参考情報になります。

希望する進路に必要な資金を意識するきっかけを早めにもつことで、志望校の検討やその後の資金計画を考えやすくなります。

STEP2【高校3年生の春~夏】奨学金の予約採用に申し込む

教育ローンの見通しを立てつつ、次に最も多くの学生が利用する日本学生支援機構(JASSO)の「予約採用」に申し込みます。これは、高校を通じて大学入学前に奨学金の利用を予約しておく制度で、多くの高校では高校3年生の春~夏頃に申込期間が設けられています。

進学先が決まっていなくても申し込めるため、この手続きを済ませておくと、進学資金の全体像がより明確になり、安心して受験に臨めます。

STEP3【高校3年生の秋~冬】「本命用」の仮審査を再度受ける

以前受けた仮審査の結果は、有効期限が切れている可能性が非常に高いです。そのため、受験が本格化し、志望校がある程度固まったこの時期に、改めて本命の金融機関に最新の状況で仮審査を申し込みましょう。

この「2回目の仮審査」が、実際の借入に向けた本格的な準備となります。ここで承認を得ておけば、合格後の手続きが格段にスムーズになります。

STEP4【合格発表直後】教育ローンを本契約し、入学金を支払う

無事に合格が決まったら、STEP3で仮審査を済ませた金融機関に速やかに連絡し、必要書類を揃えて教育ローンの本申込を行います。その後の本審査に通過したら契約手続きを進め、資金が振り込まれたら、大学の指定する期日までに入学金・前期授業料を納付します。段階を踏んで準備しておいたおかげで、慌てることなく対応できるはずです。

STEP5【大学入学後】奨学金の振込開始。在学中の資金計画を立てる

大学入学後、所定の手続き(進学届の提出など)を済ませると、予約していた奨学金の振込が開始されます。この奨学金を、後期授業料の支払いや、毎月の生活費に充てる計画を親子でしっかり話し合いましょう。

「どちらか一方しか使えない」状況別の最適な考え方

併用が基本戦略ですが、家庭の状況によっては、どちらか一方を優先せざるを得ないケースもあります。ここでは、状況別の最適な考え方を紹介します。

ケース1:世帯年収が高く、奨学金の対象外

奨学金(特に日本学生支援機構)には、世帯年収の上限が設けられています。この基準を超えてしまう家庭の場合、奨学金の利用は難しくなります。

次に検討したいのが「国の教育ローン」ですが、実は国の教育ローンにも世帯年収の上限が定められています。そのため、奨学金の所得基準を超えるような高年収世帯の場合、国の教育ローンも利用対象外となるケースが少なくありません。

結果として、所得の上限制限がない「民間の教育ローン」が主な選択肢となります。金利は年0.9%台の低金利プランから5%を超えるものまで幅広く、Web申し込みで金利が優遇されるプランもあるため、複数の金融機関を比較検討することが重要です。

ケース2:子どもに借金を背負わせたくない

「子どもには負担をかけず、親の責任で卒業させたい」という考えも非常に尊いものです。この場合は、まず「国の教育ローン(日本政策金融公庫)」の利用を第一に検討しましょう。

国の教育ローンは、固定金利で安心感があり、2025年6月時点の金利は年2.85%と比較的好条件です。ただし所得制限がある点には注意が必要です。

ケース3:特定の時期にまとまった資金が必要

「入学金」や「前期授業料」といった入学前に必要となる支払いにまとまった資金を準備する必要がある場合に頼りになるのが「民間の教育ローン」です。奨学金のように特定の申込期間がなく、必要なタイミングで申し込むことができます。審査や契約手続きがあるため即日融資は困難ですが、Web申し込みなどを活用すれば、比較的スムーズに手続きを進めることが可能です。

ただし、金利は年3%から高いものでは年10%を超えるケースもあるなど、国の教育ローンや奨学金と比較して高くなる傾向があるため、資金に余裕ができた際や、家計に余裕ができた際に繰り上げ返済を検討しましょう。

教育ローンと奨学金の基礎知識

ここで、それぞれの制度について、もう少し詳しく見ていきましょう。

教育ローンの種類と選び方

教育ローンには、大きく分けて「国」が運営するものと、「民間」の金融機関が提供するものの2種類があります。

まず、国の教育ローンは、日本政策金融公庫が扱う「教育一般貸付」を指します。これは低所得世帯にも配慮した公的な融資制度で、最大の魅力は固定金利である点です。先述の通り、金利は年2.85%(2025年6月時点)と返済計画が立てやすく安心感がありますが、世帯年収の上限が定められている点には注意が必要です。また、借入限度額も原則350万円と決まっており、審査にも通常2〜3週間(繁忙期はそれ以上)かかります。

一方、民間の教育ローンは、銀行や信用金庫などが提供する商品です。こちらは金利が年0.9%〜5%程度と金融機関によって幅広く、変動金利が主流です。国のローンに比べて審査がスピーディーで、借入限度額も300〜1,000万円程度と高額な設定が多いのが特徴です。

選び方のポイントとしては、まず所得制限を確認し、好条件な国の教育ローンが利用できるかを第一に検討するのが基本です。国のローンが利用できない場合や、借入額が不足する場合に、選択肢の多い民間の教育ローンを比較検討する、という順番が合理的でしょう。

奨学金の種類と選び方

奨学金も、その性質によって大きく2つに分けられます。返済が不要な「給付型」と、返済が必要な「貸与型」です。

給付型奨学金は、その名の通り返済の必要がない「もらえる」奨学金です。ただし、経済的に特に厳しい家庭の学生が対象で、学力や家計に関する基準が厳しく設定されています。もし対象になるのであれば、最優先で利用を検討すべき制度です。

より多くの学生が利用するのが、返済が必要な貸与型奨学金です。こちらはさらに利子の有無で分かれます。一つは、特に優れた学生向けの「第一種奨学金(無利子)」で、無利子で借りられるため非常に有利です。もう一つが、より緩やかな基準で利用できる「第二種奨学金(有利子)」です。在学中は無利子ですが、卒業後に利子がつきます。利率の方式は「固定方式」か「見直し方式」かを選べ、上限は年3%と定められています。

したがって、奨学金を検討する際は、まず給付型の対象になるかを確認し、次に第一種(無利子)、最後に第二種(有利子)という順番で検討していくのが鉄則です。

審査に通過するためのポイントと注意点

これまで見てきたように、教育ローンと奨学金では審査の基準が異なります。ここでは、それぞれの審査をスムーズに通過するために、事前に準備しておくべき具体的なポイントと注意点を解説します。

教育ローン:審査前に「信用情報」を確認・クリーンにしておく

教育ローンの審査では、親の返済能力、特に「信用情報」が厳しくチェックされます。これは単にローンの返済履歴だけでなく、以下のような情報も含まれます。

・クレジットカードの支払遅延

・スマートフォンの端末代金の分割払いの滞納

・奨学金の返済遅延(親自身が過去に利用していた場合)

もし少しでも心当たりがあるなら、CICやJICCといった信用情報機関に情報開示請求を行い、ご自身の信用情報を事前に確認しておくことをおすすめします。特に、携帯電話の機種代金や家賃の分割払い滞納、または過去のローンやクレジットカードの支払遅延がないかを確認しましょう。問題が見つかった場合は、早急に金融機関や債権者と相談し、延滞解消や返済計画の見直しを行うなど、適切な対応を取ることが重要です。

また、情報開示請求で確認できるのは過去5~10年分であるため、少なくともローンの申込予定の数ヶ月前には確認し、必要に応じて対応を済ませておくことが望ましいです。

奨学金:「人的保証」と「機関保証」の違いを理解しておく

奨学金では、親の信用情報そのものは問われませんが、返済を保証するための「保証制度」の選択が必要です。

・人的保証
親族などに連帯保証人・保証人になってもらう方法。保証人になってくれる人がいれば、追加の費用はかかりません。

・機関保証
保証機関に保証人になってもらう方法。保証料(毎月の奨学金から天引き)が必要ですが、親族に迷惑をかけたくない場合や、頼める人がいない場合に利用します。

どちらを選ぶかは、家庭の状況によります。申し込みの際に慌てないよう、事前に家族や親族と話し合い、どちらの制度を利用するか決めておくとスムーズです。

実際いくらかかる? 月々の返済額シミュレーション

最後に、実際に借りた場合の返済額がどれくらいになるのか、具体的なイメージを持っておきましょう。

教育ローンを300万円借りた場合の返済額

国の教育ローン(金利2.85%・固定)を300万円借りて、15年(180ヶ月)で返済する場合のシミュレーションは以下の通りです。

・毎月の返済額は、約20,500円

・返済総額は、約3,690,000円(うち利息が約690,000円)

奨学金を総額480万円借りた場合の返済額

次に奨学金の例です。日本学生支援機構(JASSO)の第二種奨学金で月額10万円を4年間借りた場合(総額480万円)で見ていきましょう。金利は、仮に0.9%(固定)で借りられ、返済期間を20年(240ヶ月)と想定します。

・毎月の返済額は、約21,900円

・返済総額は、約5,247,000円(うち利息が約447,000円)

※実際の奨学金の金利は貸与終了(卒業)時に決定されるため、あくまで目安としてお考えください。

奨学金の場合、この金額を子どもが社会人1年目から毎月返済していくことになります。借りる前に、親子で返済計画についてもしっかり話し合っておくことが、将来のトラブルを防ぐうえで非常に重要です。

教育ローンと奨学金を賢く組み合わせよう

教育ローンと奨学金は、どちらかを選ぶものではなく、それぞれの長所を活かして賢く組み合わせることで、その価値を最大限に発揮します。

 ・入学前のまとまった資金は「教育ローン」で確保
 ・学後の継続的な資金は「奨学金」でまかなう

この併用戦略は、家計への負担を軽減しつつ、子どもの教育を支援するための有効な選択肢の一つとなるでしょう。複雑に見える制度も、一つひとつ理解すれば決して難しいものではありません。

この記事を参考に、ご家庭に合わせた最適な資金計画を立て、安心して子どもの未来を応援してあげましょう。